「精神的な苦痛」を被害として認める必要性

2011-03-05

阪井:裁判を起こして損害賠償を請求する場合、「その金額を算定した根拠を示してください」と裁判所から言われます。私自身、交通事故の障害などを参照していますが、事故の場合、明らかな「醜状」、つまり目に見える被害に対していくら、という算定になる。けれども美容外科の場合は、いわゆる失敗手術以外にも、「醜状とは言えないけれど本人は納得できない」というケースがあるんですよね。しかしこうしたケースに対していくら、という金額の基準は一切ない。 小田:私が担当したケースですが、頬の骨が少し出ているので削りたいと美容外科へいったら、本人が希望していなかった下顎の骨も削るように勧められたうえ、本人が予想していたより大きく下顎の骨が削られた。その人は、自分の顔を受け入れられない状態になってしまった。一方、医師は「整ったうりざね顔を作っただけ、誰も変な顔だと思わないはず」と主張する。まさに、傷跡やアザができたわけではないが、本人は失敗だと感じているケースです。手術後、外へ出られず社会的な活動に支障をきたしてしまった、という面から見れば「損害を受けた」ことになるわけです。手術結果が本人の希望に反した場合には損害賠償をする、という発想にならないと、裁判を起こした意味がない。つまり、美容外科の被害は、「誰が見ても手術が失敗したことがわかる『醜状被害』」のケースと、「他人が見れば『醜状』ではないけれども、本人が抱いている美的な要求に照らせば、受け入れがたい顔になってしまったという『被害』」のケース、2つを分けて考えるべきなんです。 阪井:裁判の現状では、後者のようなケース、「思うような効果が得られていない」という債務不履行を認めるところまではいっていないですよね。明らかに傷ができた場合などでも200万円程度の賠償にとどまる。しかも修復手術を受けることを前提に障害を算定する場合は、「修復手術を受ければ、後遺障害がないもの」として扱われる。しかし、修復手術を受けるか否か、いかなる手術を受けるかは、本来患者に選ぶ権利があってもよいのではないでしょうか。なぜなら、再手術をすると、また別の傷跡が残ったり、再手術自体が怖くて受けられないケースもあるからです。小田:美容整形のトラブルに関しては「被害者を癒す」という形で裁判が機能していない。普通の医療行為であれば、万が一事故などが発生した場合、医師会が整備している損害賠償保険から賠償金が支払われるシステムになっていますが、美容外科の事故の場合はその保険も適応されないんですよ。ですから被害が発生しても賠償がなかなか進まず、患者も十分に対応してもらえず、結果として被害が患者にしわ寄せされてしまう構造があるんですね。最近、PTSD(心的外傷後ストレス障害)などのように心理的・精神的苦痛に対する賠償を認めよう、という動きが社会的に広がっていますが、私は美容外科のトラブルも「精神的な被害」としてとらえるような発想が必要ではないかと思っています。「醜いかどうか」「二重の幅が広いかどうか」の議論をしているだけでは問題はなかなか解けない。美容外科と精神科が連携して動くなど、新たな救済システムが求められている。そのためにも東大で「美容外科」という看板を掲げるのはいいことですよ。いかがわしい手術が横行している現実が一方にあるとしても、「美容外科」は国が認めた正式な標榜科目なのですから、大学病院でも正面から「美容外科」を設けて、専門のトレーニングを実施して、まともな医師を育てるシステムを作るべき。経験がない医師が「儲かる」という理由で美容外科になだれこむような現象に歯止めをかけないと、被害もなかなかなくならないのではないでしょうか。大阪の弁護士たちが取り組む「美容整形・エステ被害110番」の活動は、美容被害を受けた人たちの相談にのると同時に、これから手術を受けようと考える人へ、貴重な情報を提供し続けている。

[関連サイト]
http://www.cassandracomplex.net/topic02.html


http://www.sintonizzati.com/sitemenu02.html


http://www.salvante.com/