もちろん自転車の旅では、後ろを向いて進むことはできぬ。だが、走り通してきた里程は、身体を通して自己に蓄積されているから、その達成感とともに、よくここまで走ってきたものだという思いが湧き上がるほうが、むしろ自然だ。20世紀という時代の主潮は、やっぱり「前に進め、前を見よ」ということだったし、それは何も政治や経済の旗印だけでなく、平和で善良な個人の意識構造のなかにも浸透している。自戒を込めて言うのだが、前進せよ、という自ら使ってしまう暗黙の号令のなかには、自分の力で、という考えが対のようになって含まれている。
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だから、われわれサイクリストもまた、専ら自らの身体の持てる能力や強い意志力でもって、その目的地まで到達した、というように考えがちだ。いやむしろサイクリストのほうが、公共交通機関や自動車で旅をする人よりも、自己の力を評価する傾向ははるかに強いだろう。でもそれは一面に過ぎない。