山口県の南東に位置する柳井市には、夏恒例の祭りがある。金魚ちょうちん祭りという八万人もの観光客が訪れる盛大な祭りであり、会場のいたるところに「金魚ちょうちん」が飾りつけられ、その灯りの下、巨大な「金魚ちょうちんのねぶた」を引いて練り歩き、参加者の「ラッセラー」という掛け声とともに跳ね踊る。まるで青森のねぶた祭りのようなのだが、それもそのはず、柳井市の金魚ちょうちんのルーツはそこにあるのである。柳井市に欠かせない郷土民芸品である金魚ちょうちんは、柳井商工会議所によれば、今から百五十年ほど前の幕末の頃に柳井津金屋の熊谷林三郎氏が青森の金魚ちょうちんにヒントを得て開発したものであるという。伝統織物「柳井縞」の染料を使ったというこの民芸品は、鮮やかな赤と白のコントラストの利いた胴体に、まんまる黒目の顔立ちで、青森の金魚よりもおどけた表情がなんとも愛らしい。ただし、たしかに青森をルーツにしていることに違いないが、熊谷氏が考案した幕末当時、この地域では金魚を飼うことは町民にとって一種のステイタスであったことも金魚ちょうちんの誕生に関係している。金魚は中国から日本に渡り江戸時代に各地に広まっていったものだが、その頃の武家の庭で飼われていた池の鯉と同じように、金魚を飼うということは名誉や権力の証しであったようだ。現在の柳井市付近はとくにその風習が強い土地であったことから、金魚にあやかってモチーフに使ったという背景もあるのである。こうして誕生した金魚ちょうちんは、江戸時代には庶民の間で親が手作りで子供に与える身近な玩具として人気があり、昭和期には発行された『日本郷土玩具番付』(日本郷土玩具の会)で上位にランクインするなど、県を代表する民芸品に成長した。さらに、家の軒先に金魚ちょうちんを飾る習慣が生まれ、ゆらゆらと揺れる金魚ちょうちんがずらっと並ぶ町並みはこの柳井地方の夏の風物詩となった。それが現在の金魚ちょうちん祭りにも繋がっているのである。毎年、祭りの行なわれる八月十三日には、二〇〇〇個の金魚ちょうちんに一斉に灯りが点されて、会場が幻想的な雰囲気に包まれる。その中を一〇基ほどの巨大な金魚ちょうちんが引き回され、参加者が跳ね踊って楽しむわけである。灯りとなる金魚ちょうちんの光源には電球が使われているが、これは素材が和紙なので燃えないようにという配慮からだ。かつては電球ではなく、ろうそくの火が使われていた。近年には「金魚ちゅうちん」なる巨大ねぶたも登場。これは二匹の金魚が向かい合って“キス”をしているねぶたである。
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